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短編小説 - 自動販売機の天使 -



-------------- 自動販売機の天使 -----------------------


僕の朝は、近所の公園を散歩することから始まる。

公園へ向かう途中、タバコと缶コーヒーを自動販売機で買う。

缶コーヒーは当たり付きの販売機で買う。

最近、このタイプは随分と減ってきてるように思う。

たまに当たった時のちいさな幸福がすきで、いつもこの販売機で買ってしまう。

その日、なんの気なしに、ぐるぐる回るルーレットをみていると

当たった。

久しぶりだ、ちょっとの幸福、気分よくいつも公園へ向かう

そしていつものベンチをめざす、

でも、今日は先客いる。

違うベンチへ向かおうと、お気に入りのベンチの前を通りすぎようとした時

僕のいつもの朝の日課をじゃました、先客が僕の方をみてニコッと笑った。

その先客は、60歳ぐらいの老人で、ニコッと笑った口元を見ると前歯が一本抜けている

服装はよれよれの背広、朝の散歩の服装には思えない。

僕は、そのまま見なかったことにして、通り過ぎたかったが

なぜか、彼の視線から逃れられず、微笑んでしまった。


「なんかいいことでもありましたか?」

「いえ別になにも」

「そうですか、なんか幸せそうな顔して歩いてましたよ」

「え? そうですか、あ! 缶コーヒー」

「缶コーヒーがどうしましたか?」

「当たったんですよ、あそこの自動販売機で」

「それはそれは」

老人はベンチの真ん中に座っていたが、横にずれ、その空いた場所を

とんとんと指で叩いた。

座れっていうことし、でも朝から、この老人と二人でおしゃべりする気にもなれないし

無視して歩いていこうか

迷ってる僕に再びニコッと微笑む。

僕は仕方なく隣に座った。

なぜか、この老人の”ニコッ”には逆らえないような気がした。

「あなたは天使を見たことありますか」

僕が座るか座らないうちに老人は前をみたまま言った

「て、ってんし、もちろん見たことないですよ」

僕は突然の問いかけに唖然とした。

「じゃ、あなたは天使ってどんな者だとおもってますか」

僕は、あの、宗教画に出てくる赤ちゃんに羽が生えた姿を想像した。

「あかちゃんにはねが・・・・」

朝からなんでこんな話をしなきゃいけないんだ。

「あかちゃん? あれを初めて見たとき、笑いました あれは、人間が勝手に想像した姿です」

老人は真面目な顔で答える

「じゃ、おじいさんは、本物の天使を見たことがあるんですか」

僕は何を聞いてるのだろう、すっかりその老人のペースに巻き込まれている

「もちろん ありますよ」

老人はまったく、普通に答えた。

「どんな姿でした?」

「姿は普通の人間と同じですよ、というか、どんな形にもなれるんですよ、天使だからね」

この老人もしかして頭おかしいのか、それとも・・・・・

「ところで、おじいさんはここで何をしてるんですか」

「私ですか、私はあれの担当なんですよ」

と、さっき僕が買った缶コーヒーの自動販売機を指差した。

「自動販売機の業者さん」

「いえいえ 違いますよ」

「じゃ、何の担当」

「人間に幸せをプレゼントしてるんですよ」

「自動販売機で、幸せをですか」

「だって、あなたさっき幸せそうな顔して歩いてきたじゃないですか」

「そ、そうですけど」

分けがわからないけど、妙に納得してしまった。

老人は立ち上がり、

「さ、そろそろ仕事にもどらないと」

っというと自動販売機の方へ歩いて行った。

僕も奇妙な気分ではあったけど、2人の会話はあっさり終わった。

もっと話をしたい気分ではあったが、僕も立ち上がり

いつもの散歩コースを歩き始めた

そして一度だけ自動販売機の方を振り返ってみたが

そこにはもうあの老人姿はなかった


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何ヶ月かったって

いつものように、いつもの自動販売機で缶コーヒーを買った

久しぶりに当たった。

何ヶ月前に会ったあの奇妙な老人のことを思い出した。

あたりを見回してみる、もちろんあの老人の姿はない。

でも、心のなかでつぶやいた。

「ありがと 天使さん」









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